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私は医療・介護の世界にて長年働いており、近年の介護事情にも精通している作業療法士の田中です。
皆さんは、ユマニチュードという言葉を聞いたことがありますか。
ユマニチュードとは、最近、注目を集めつつある認知症ケアの考え方です。
今回は、ユマニチュードをご紹介します。
認知症ケアにおけるユマニチュードとは
ユマニチュードとは、フランスで始まった認知症ケアの考え方です。
ユマニチュードという言葉には、人間らしさという意味が込められています。
元来、医療機関は、病気を治す場所として機能してきました。
しかし、高齢者が入院した場合、病気そのものは管理できても、認知症へは無力な場合が多いのです。
例えば、肺炎で2週間入院した高齢者がいたとすると、病気は医療で治すことができますが、治療期間中の安静により心身の機能が低下する場合があります。
身体の場合は、廃用症候群などといい、リハビリで回復を促すことができます。
しかし、心の問題として認知症を発症した場合、現在のところ特効薬がないことが現状です。
ユマニチュードでは、介護=ケアの内容を丁寧に見直すことで、認知症高齢者の心と身体の回復を促します。
しかし、その一つ一つは、人へのケアとしてはごく常識的なことです。
ユマニチュードの創始者は、著書の中でこのように述べています。
「この本には常識しか書かれていません」
「しかし、常識を徹底させると革命になります」
認知症ケアのユマニチュードの4つの柱
ユマニチュードでは、認知症高齢者へのケアにおいて、
「見る」
「話す」
「触れる」
「立つ」
の4つを柱として考えています。
見ることには、様々なメッセージがあります。
ポジティブなメッセージとしては、
- 水平に目を合わせることで平等であることを伝えます
- 顔を近づけることで親密さを伝えます
- 見つめる時間を長くすることで愛情を伝えます
では、ネガティブなメッセージとはどんなことでしょうか?
- 垂直に見下ろすことは、見下す意味を伝えます
- 目の端で横から視線を送ることは、攻撃を伝えます
- 遠くから見ることは、関係性の薄さを伝えます
- ちらっと短い視線を送ることは、恐れや自信のなさを伝えます
あるデータでは、寝たきりの認知症患者のベッドサイドに訪れた医師や看護師は、3日間で0.5秒未満の視線の投げかけをたった9回しか送らなかったそうです。
そして、アイコンタクトは0秒だったそうです。
ユマニチュードにおける「見る」技術は、
- 正面から相手を見る
- 円背ならば、下からのぞきこむように目を合わせる
- 後ろからは声をかけず、一度追い越してから向き直り近づいて目を合わせる
- 顔の近くまでぐっとよって視線をつかむ
- 食事介助では、しっかりスプーンを目の前で見せてから口へ運ぶ
などです。
話すことは、コミュニケーションの基本です。
仮に、相手が話せなかったとしても、ケアする側は話さなければいけません。
話しかけないことは、相手の存在を認めていないことになるのです。
たとえ、理解力が低下している場合でも、声のトーンはあくまで優しく穏やかにします。
それは、ポジティブな感情として相手に残るからです。
ユマニチュードの具体的な「話す」技術とは、オートフィードバックという方法です。
例えば、いくら話かけても相手からは反応がない場合があるかもしれません。
そのような場合でも、話しかけ続けることが重要です。
そのためには、自分のケアの内容や相手の反応を実況中継し続けるのです。
スタッフ「〇〇さん、こちらを向いてください」
高齢者 「・・・・」
スタッフ「大丈夫ですよ、背中をふきますよ」
高齢者 「・・・・」
スタッフ「気持ちいいでしょう、暖かいでしょう」
高齢者 「気持ちいい・・・・・」
スタッフ「ほら、あたらしいパジャマですっきりしますね」
高齢者 「ほっとする」
などのように、相手の気持ちに立って言葉をかけ続けることが重要です。
ケアに触れることは欠かせません。
しかし、触れ方によっては、相手に恐怖心や不快感を与えてしまいます。
例えば、認知症で言葉が理解できない状況で、いきなり手をつかまれたらどうでしょうか?
恐怖でパニックになるかもしれません。
ユマニチュードの触る原則は、
- つかまないで下から支える
- 5歳の子供以上の力はいれない
- 一定の重みをかけて安定させる
- 飛行機が離着陸するイメージで、触れたり放したりする
- 指先だけでなく、手のひらなど全体で面積を広くして触れる
- 顔、手、陰部などのプライベートゾーンにはいきなり触れない
などです。
ユマニチュードでは、立つことは人間の尊厳であり、最後まで尊重されるべきと言われています。
立つことのメリットは、
- 骨に刺激を与えて骨粗しょう症をふせぐ
- 筋肉を刺激して筋力低下を予防
- 血液の循環を改善
- 呼吸機能を改善
などです。
ユマニチュードでは、歩けない理由の多くは医原性、つまり病気の治療のための安静の結果と考えます。
そのため、40秒間なんとか立てる場合は、1日に20分程度の立位をとらせることが望ましいと考えています。
それは、特別なリハビリとしてではなく、様々なケアの中に立つことを取り入れて、1日の合計で20分間立つようにすべきという考え方です。
認知症ケアのユマニチュードの5つのステップ
以上のことをケアとして提供する上で、さらに以下のステップを考えます。
1、出会いの準備
- 3回ノック
- 3秒まつ
- 3回ノック
- 3秒待つ
- 1回ノックしてから部屋に入る
- ベッドボードをノックする
2、ケアの準備
- 正面から近づき相手の視線をとらえる
- 目があったら2秒以内に話かける
- 最初からケアの話はしない
- 身体のプライベートゾーンにはいきなり触れない
- 「見る」「話す」「触れる」の技術を使う
3、知覚の連結
- 常に「見る」「話す」「触れる」のうち2つを行う
- 五感から得られる情報は常に同じ意味を伝える
4、感情の固定
- ケアの内容を前向きに確認
- 相手を前向きに評価
- 共にすごした時間を前向きに評価
- ポジティブな感情記憶を残す
5、再開の約束
- 例えば、握手をして「また来ますね」と言って別れる
- 次回の約束を予定表などに書き込む
認知症ケアーのユニマチュードのまとめ
1,「認知症ケアにおけるユマニチュードとは」のまとめ
ユマニチュードとは、人間らしを大切に考えるケアです。
2,「認知症ケアのユマニチュードの4つの柱」のまとめ
ユマニチュードでは、認知症高齢者へのケアにおいて、
「見る」「話す」「触れる」「立つ」
の4つを柱として考えています。
3,「認知症ケアのユマニチュードの5つのステップ」のまとめ
ユマニチュードのステップは、以下の通りです。
1、出会いの準備
2、ケアの準備
3、知覚の連結
4、感情の固定
5、再開の約束
投稿者プロフィール

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30年以上に渡り作業療法士という仕事をやっています。
現在は老人保健施設のリハビリの管理職として勤務をしています。
介護の資格は作業療法士、介護支援専門員、福祉住環境コーディネーターを取得しています。
こちらでは介護のシステムや介護機器についての記事を書いてゆきます。
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